この年、入場ゲートには枯山水が作られ、アーチ型の橋が架けられ、ニワトリは巨大ゴリラに変異し、巨大トンボが宙を舞った。オーストラリアからやって来た強者による、400万ボルトの電気を発するライトセイバーでエレクトリック・バトルや、12メートルの高さを誇る噴水と火柱で観る者を魅了するFeuerwasserがアリーナを席巻した。そして今となってはクリスタルパレスはミュージシャンやアーティストがプレイしたいと思う場所になった。金曜日はSeasick Steve, Trave-Wrappin, Flying Padovani。土曜は超ファンキーなMocha Mountain Kilimanjaroに始まりCumbia Kid, Big Willie’s Burlesque, Jim Westが盛り上げ、極めつけは何と言ってもGogol Bordelloの圧巻なパフォーマンス。テントが揺れて崩れ落ちそうな程の盛り上がりをみせた。日曜はシーナ&ザ・ロケッツがロックに、PinchやTomi the Jazzy Monkはレアグルーヴやジャズでフロアーを揺らし、JVC Forceとゴージャスなベリーダンサー達による怒濤のパフォーマンス。最後は例年通り、Sim Cassによるダブ・セットで日曜日の甘い夜を締めくくった。太陽が昇っても外では興奮冷めやらぬGogol Bordelloがバスキングし、2重に架かった虹に人々が歓喜した!







この年新たに追加されたものは、MutoidのSamのシルバーに塗られた巨大な赤ん坊の足の巨大ゲートや、メリーゴーランドを始めとする、お客さんが乗ったりして楽しめるオブジェが多数作られた事だ。メイン・アリーナの目玉はグローブ・オブ・デス。3台のバイクが球体の中を走り回り、そのすれ違いざまのバイク同士の隙間は目を覆いたくなるほどで、最後にはその球体が二つに分かれてしまうというスリリングなショーだった。Joana Peacock率いる原始人が、ハリボテの大きな岩と共に会場内を練り歩いた。すっかり定番となったクリスタル・パレスではTan Tan & the Cool Wise MenやStranger Cole & the Dreamletsらジャマイカのレジェンドに加え、あのJonathan Richman そしてオーサカ=モノレールとMarva Whitneyの豪華なコラボレーションなど前年をしのぐ強力なラインナップとなった。DJブースではキング・ナベ、エゴラッピンの森雅樹、DJ Jin、Wild Jim West、DJ MuroそしてDJGらがフロアーを沸かせた。綱渡りヴァイオリニストのクワバナ・リンゼイは楽しいジプシーサーカスで毎晩その日の最後を飾り、ルーキー・ステージは終日に渡って盛り上がりを見せ、客で溢れていた。まさにラッシュ時の満員電車さながらの盛況だった。

遂にこの年、POWに本物の宮殿(パレス)が現れた。世界1美しいと言われているスピーグル・テントであるクリスタルパレスが、12メートルのコンテナ2つに詰め込まれてオランダはアムステルダムから届けられた。総重量45トンに及ぶ木材、ステンド・グラス、鏡からなるこのテントは、正に存在そのものがアート。城壁の様な壁もPOWのエリアを覆い尽くした。このテントの中にはブラック・ベルベットと名付けられたバーもあり、シャンパンやギネスビールといったワンランク上のドリンクのみがサーブされた。金曜日の夜はTequila Savoyということで、勝手にしやがれや日本のラテン、ビバップ、ジャズ界のトップDJ達が朝まで客を踊らせた。土曜日の夜はGaz’s Rockin’Blues25周年記念ということで、Barrence Whitfield & The Rizlazや大阪からはRude Pressures featuring Ricoらがプレイ。日曜夜のテーマは「Let’s Crazy」。Big Willie’s Burlesqueのダンスパフォーマンス、 独特な雰囲気を醸し出したMurasaki Baby Doll、Panorama Manbo BoysそしてLucifireは背中をフックで引っ掛けて宙づり状態で行うという言葉を失うほどのセクシー・ストリップティーズを見せてくれた。アリーナの外ではAD Tree Pirateの10 トンもある木製の巨大蠍をバックにチェーンソウのジャングリングやEddie Egalのファイヤー・ショーが観客をあっと言わせた。

酉年ということでジョーはフォルクスワーゲンをベースにした巨大ニワトリを作り上げ、恐竜はコンテナの上にそびえ立った。前年同様円形サーカス・テントが設置され、Gideon Bergerによって鮮やかな赤いベルベット仕様の豪華な内装が手がけられた。東京クラブシーンの伝説ともいわれるロンドン・ナイトとクラブ・スカのトップDJ陣がプレイし、スカ・クバーノやキッドカーペットがエネルギッシュなライブを披露した。それに加えノーマン・クックが急遽飛び入りでDJをし、Big Willie’s Burlesqueはセクシーな女性ダンサーと共に、観る者を魅了した。アリーナではJean Montiは高さ42メートルもの目眩のするような高さまで登り、霧雨まじりの突風の中で片手で逆立ちするという息をのむようなパフォーマンスを綱渡りと共に見せてくれた。一歩間違えたら命も落としかねない、まさに見る者を魅了する「神業」であった。

この年のPOWは15メートルの円形サーカス・テントが出現し、クラブ形式で日毎にテーマを決め、松浦俊夫(U.F.O.)、ギャズ・メイオール率いるGaz’s Rockin’Blues、Son of Dave、Very Be Careful等の錚々たるDJやバンドの面々がオーディエンスを沸かせた。アリーナではWheel of Deathの圧倒的なパフォーマンスとエチオピアから来たジャグリング世界チャンピオンのビビとビチューもこれに参戦し、ルーキー・ア・ゴーゴーのステージは年々その知名度と共に大きく成長していった。ファイヤー・ツリー、巨大アリ、恐竜に加え、この年は15メートルの大きさの手が出現し、羽を広げた巨大トンボがその上にとまっていた。天候にも恵まれ、この年も大いに盛り上がった。

ジョー・ラッシュとMutoidsは単管とビニールシートとタイヤのホイールキャップを使い、手作りのステージを作った。そしてそこではカンカン・ダンサー、Paka the Uncredible、Eddie Egal the Pyromancer、The Great Voltini'sらが感電&ファイヤーショーを披露した。ロンドンから持ち込まれたタクシーをベースに作られた恐竜も出現し、Dragonsterとなって現れた。翼の付いた巨大なギターが前年に亡くなったジョー・ストラマーの為に作られ、キャンプファイヤーと共に追悼が行われた。最終日の朝4時にPOWスタッフはルーキー・ステージから楽器を急遽運び込み、トロージャンズによる夜明けのスペシャル・シークレットライブが行われた。悪天候に見舞われたこの年のフェスにとって最初のまぶしい日差しと共に。

ジョー・ラッシュはMutoidsの仲間と共に12メートルほどの巨大なコンテナと共に苗場に現れた。その中身は中古車のマフラー、鋼材、鉄くず、プラスチック容器などのジャンクで、現地で待ち構えていた日本人スタッフが「何だこのゴミの山は!?」と思ったほどだった。数日するとこのゴミの山が、マフラーを溶接して繋ぎ合わせた巨大なファイヤー・ツリーに、そしてビルの3階くらいの大きさの巨大アリとなり、そのアリは車を食べていた。大きさが分かって頂けるだろうか?その胴体にはDJブースが組まれ、DJ SimやDJ Jimがプレイした。

イギリスからはジョー・ストラマーやキース・アレン(コメディアン/俳優、リリー・アレンの父としても知られている)がキャンプ・ファイヤーを、ラスベガスからはジョン・ストッツのグローブ・オブ・デスがスリリングなバイクのスタントショーを披露した。ルーキー・ア・ゴーゴーのステージがこのエリアに移動し、ルリはブラックジャックやルーレットに加えストリップ迄が楽しめるべガス・ミルク・カジノを設置した。ホワイト・ステージのトリをつとめたマヌ・チャオはキャンプファイアーの周りで即興を演じ、ジョージ・クリントンは巨大なトンボを屋根に乗せたアウトリガーシート仕様のトヨタクラウン突然変異バージョンを乗り回した。